2022-01-01から1年間の記事一覧

時雨沢恵一「キノの旅/the Beatiful World」

旅人キノの訪れたその国は、入国許可から宿の手配、サービスにいたるまでが機械化され、人間の気配がまったくなかった。それでも、ひとつの国に3日は滞在するという自分に課したルールに従い、愛車エルメスを駆って国民の姿をさがしたキノは、やがて森の中の…

野村美月「『嵐が丘』を継ぐ者/むすぶと本」

本の声を聞くことができる榎木むすぶが、ある古書店で耳にした助けを呼ぶ声は、新刊書店で万引きされて売られてきたという、志賀直哉「小僧の神様」だった。その書店では、同じ少年たちによって犯行がくりかえされているという。 本の声に導かれて様々な事件…

柄刀一「流星のソード/名探偵・浅見光彦vs.天才・天地龍之介」

北海道の出版社からオファーを受け小樽を訪れた浅見光彦。 その過程で訪れた榎本武揚建立の龍宮神社で、かつて山梨で邂逅し同じ事件を追った天地龍之介らと再開する。 従兄の光章らと、龍宮神社に奉納された“流星刀”の公開を見物に訪れていた龍之介は、そこ…

有栖川有栖「捜査線上の夕映え」

新型コロナウイルス第2波が落ち着きを見せ始めた2020年8月、あるマンションの一室で発生した殺人事件。 計画性のない発作的な犯行の様相を呈し、痴情のもつれや金銭面での確執など、動機をそなえた容疑者も数名浮上、早期解決が見込まれたものの、容疑者各人…

人間六度「スター・シェイカー」

人間のテレポート能力が研究され、法整備や実用化の進んだ未来。赤川勇虎(あかがわいさとら)は、旅行者や貨物を運ぶ職業テレポーター、剛力(ゴウリキ)だったが、事故で人を死なせてしまい、心因性の疾患によってテレポート能力を失う。そんな彼はある日…

野村美月「『外科室』の一途/むすぶと本。」

聖条学園に通う榎木むすぶは、本の声が聞こえる能力を持った、それ以外は平凡な高校一年生。 本である恋人の夜長姫(よながひめ)の焼きもちに悩まされながら、本たちの悩みを聞くと放ってはおけない、「本の味方」。 ある時、駅の貸本コーナーから助けを求め…

陸秋槎「文学少女対数学少女」

推理小説好きの高校生、陸秋槎(りく・しゅうさ)と、数学の天才で少し変わり者の韓菜盧(かん・さいろ)のふたりが織り成す短編4編収録。 秋槎や他の登場人物が書いた作中作の「犯人当て小説」をめぐる推論がメインで、現実の事件も同時に解決したり、推理…

柄刀一「ミダスの河/名探偵・浅見光彦vs.天才・天地龍之介」

ルポライター、浅見光彦はあるきっかけで、7歳にして白血病のために末梢血管細胞移植を受けようとしている少女、山内美結(みゆ)のことを知り、取材に乗り出す。 幸いにして白血球型の一致するドナーが見つかり、いよいよ移植手術の当日を迎えるが、その直…

ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」

2012年4月、リトル・キルトンの町で発生した高校生失踪事件。 学園の人気者だった美少女、アンドレア(アンディ)が姿を消し、直後に恋人だったサリル・シン(サル)が自白ともとれるメッセージを残して自殺死体で発見される。 5年後、グラマースクールの最…

浅田秀樹「三体問題/天才たちを悩ませた400年の未解決問題」

有名な天文物理学上の未解決問題の本。僕には珍しい理系の教養書で、読んでみようと思った動機というのが、某中文SFでこの三体問題を知ったから。理系の人にはごく初歩的な入門書なんだろうけど、理解するにも楽しむにも、僕は素養が足りなかったかな。 むし…

福田和代「繭の季節が始まる」

21世紀初頭のパンデミックを経験して、人類は《繭》と呼ばれる制度を導入。新型ウィルスが発見されると、警察官や消防官、医療従事者などの一部の職種を除いて、収束までの間、外出は原則禁止となる。交番勤務の警察官、水瀬アキオは猫型警察ロボットの相棒…

ミハイル・エリザーロフ「図書館大戦争」

旧ソ連邦時代の無名作家ドミトリー・グロモフ。彼の残した数少ない著作には、人間の精神に働きかける不思議な力があった。そのことに気付いた者たちは、「図書館」「読書室」といった秘密結社を組織し、グロモフの小説の収集に血道をあげ、時に壮絶な衝突を…

額賀澪「世界の美しさを思い知れ」

出演映画の完成を目前に自ら命を断った俳優の蓮見尚斗。 家族との不仲、マネージャーら関係者との軋轢、映画監督のパワハラ、元恋人への未練、と世間はその動機を様々に憶測する。 誰よりそれを知りたいと願う双子の兄の貴斗は、弟のスマホに届いた連絡メー…

岡田秀文「白霧学舎探偵小説倶楽部」

太平洋戦争の末期、空襲から逃れる疎開の意味もあって、地方の小村落の寄宿舎学校へと編入することになった美作宗八郎は、寮長の滝と同学年の斎藤、最初にできたふたりの友人から、探偵小説倶楽部に引き込まれる。 彼らは5年前から続くある連続殺人に関心を…

劉慈欣「円/劉慈欣短篇集」

「三体」で中文SFブームを引き起こした作者の短編集。原著にあたる本はなくて日本独自の刊なのだけど、収録作選出は著者自身によるとのこと。ユーモラスなの物寂しいの、古代もの、近未来ものと多彩で、それだけに個人的に合う合わないはあったけど、全編通…

アレックス・ベール「狼たちの城」

1942年3月、ナチス政権下のドイツ、ニュルンベルグ。元古書店主のユダヤ人、イザークと彼の一家にポーランドへの移送通知が届く。そこで待ち受ける運命から逃れるため、彼はレジスタンス組織に参加している元恋人のクララを頼る。彼女が彼のために用意したの…

方丈貴恵「名探偵に甘美なる死を」

人気VRゲーム「ミステリ・メイカー」の続編のテストプレイと称して、現実にいくつもの難事件を解決してきた8人の“素人探偵”が集められる。彼等を待っていたのは、ゲーム内で起きる殺人事件を解決しなければ、実際に命を奪われるデスゲームだった。人質をとら…

A・M・ディーン「失われた図書館」

高名な考古学者、アルノ・ホルムストランドが大学の自身のオフィスで射殺される。 彼は死の直前、同僚のエミリー・ウェスに手紙を遺していた。 古代アレクサンドリア図書館は、現在も存続している。 故人の言葉に導かれて、エミリーは古代史の謎を追う旅へ向…

北原真理「リズム・マム・キル」

るかは新聞記者の母親、恵令奈(えれな)と二人暮らし。12歳の誕生日の翌日、家に押し入った殺し屋のヤタによって母は重傷を負わされ、るかも拉致される。ヤタの目的は恵令奈が探りだしていた、政治家一族の御曹司の醜聞にあった。 冒頭からいきなり暴力描写…

劉慈欣「三体Ⅲ/死神永生」

三体世界による侵略が認識された危機紀元の初頭。 肺がんのために余命わずかとなった雲天明(ユン・ティエンミン)は、思いがけない大金を手に入れ、国連主催のオークションで太陽系外の恒星を購入、学生時代に想いを寄せた程心(チェン・シン)にプレゼント…

陳楸帆「荒潮」

中国南東部の硅(シリコン)島。 羅(ルオ)、陳(チェン)、林(リン)の「御三家」が強い影響力で支配する故郷の島に、米企業の経営コンサルタントの通訳として帰ってきた陳開宗(カイゾン)は、町で不良少年に襲われていた少女、米米(ミーミー)を助ける。 電子ゴミ…

メグ・キャボット「恋するアメリカン・ガール」

絵を描くのが好きな15才のサム(サマンサ)。両親に通わされることになった絵画教室をさぼっていて、大統領暗殺事件に巻き込まれたことから彼女の生活は一変する。大統領を救った国民的英雄に祭り上げられ、命の恩人としてホワイトハウスでのディナーにも招待…

ベン・クリード「血の葬送曲」

1951年、スターリンが絶対的権力を握るソビエト連邦。 レニングラード(現ペテルブルグ)郊外の線路上に、無惨に傷つけられ奇妙な扮装をほどこされた、5人の死体が並べられていた。 レヴォル・ロッセル警部補は、被害者の中にかつての恋人がいたことをつきと…

ケイトリン・マレン「塩の湿地に消えゆく前に」

クララには、他人の強い想いを幻視する能力があった。自分と同じ能力を持ち、今はカリフォルニアにいるという母親のもとへ旅立つ日を夢見て、叔母のデズと万引きやスリ、そして占いで生計を立てている。ある日、行方をくらました姪のことを知りたいとやって…

ビル・クリントン、ジェームズ・パターソン「大統領失踪」

アメリカ大統領ジョン・ダンカンは、ただひとりホワイトハウスを抜け出し、ある人物との密会に向かう。大統領周辺の限られた数名しか知らないはずの暗号名“ダークエイジ”を切り札に、ダンカンに接触を求めてきた謎の男女。彼らのもたらす情報とは何か。そし…

アンナ・ツィマ「シブヤで目覚めて」

村上春樹がきっかけで日本文化に傾倒し、大学でも日本学を専攻するヤナ。図書館の蔵書整理中に見かけた日本の無名作家、川下清丸のことを知り、優秀だが変わり者の大学院生、クリーマの助けも借りて、研究に乗り出す。 一方で渋谷には、もうひとりのヤナがい…

福田和代「ディープフェイク」

ある事件がきっかけで生徒思いの熱心な教師としてマスコミに取り上げられ、テレビの教育番組にもレギュラー出演する、湯川鉄男。ある週刊誌が身に覚えのない、教え子との不適切な関係を報じてから、彼の生活は一変する。ネットにあふれる捏造動画、誹謗中傷…

ボリス・アクーニン「トルコ捨齣スパイ事件/ファンドーリンの捜査ファイル」

1877年、帝政ロシアとオスマン帝国の露土戦争の最中。ワルワーラ(ワーリャ)・スヴォーロワは婚約者のペーチャが暗号手として勤務する最前線の町、ツァリョーヴィツィを目指すが、雇った馭者の裏切りで窮地に陥り、志願兵としてやはり前線へ向かうエラスト…

東川篤哉「野球が好きすぎて」

捜査一課の神宮寺勝男とつばめの刑事父娘と、熱狂的カープファンの安楽椅子探偵のミステリ短編集。 2016年から2020年まで毎年一編、その年プロ野球で実際にあった出来事を織り込んでいて、探偵役からして当時の広島のチーム事情にちなんだ偽名を名乗るという…

有栖川有栖「双頭の悪魔」

有栖川有栖「双頭の悪魔」 夏の事件(「孤島パズル」)で受けた受けたショックを抱え、長い旅にでかけた有馬麻里亜(マリア)。 思わぬなりゆきから、ある資産家が山奥の廃村を買い取って立ち上げた芸術家たちの里、木更村に長逗留することになる。 一方で娘…