野村美月「『嵐が丘』を継ぐ者/むすぶと本」

本の声を聞くことができる榎木むすぶが、ある古書店で耳にした助けを呼ぶ声は、新刊書店で万引きされて売られてきたという、志賀直哉小僧の神様」だった。
その書店では、同じ少年たちによって犯行がくりかえされているという。

本の声に導かれて様々な事件に巻き込まれる短編シリーズの2巻目。
正確には、もともとの原点にあたる長編作品があって、こちらはスピンオフということになるようで、僕はそのエピソード0的長編は未読。
それでも楽しめるようには出来ているのだけど、ところどころ読んでいた方が分かりやすいのかと思う箇所も。

本の声を聞くという特殊能力を何の屈託もなく受け入れて、“恋人”の夜長姫にデレっぱなしの主人公に、僕はちょっと引くかもしれない。
かなりきわどい塗れ場もあり。
それでも基本的にはハッピーエンド揃いの心暖まる読み味。

表題作に入っている「嵐が丘」はじめ、実在する本のあらすじ紹介的要素も楽しみのひとつ。
これはてっきり架空と思った、恋愛マニュアル本「すべてはモテるためである」も実在するようで、驚いた。
最後の一編にだけ架空の小説家の架空の作品群が出てくるのだけど、分かる人には分かるモデルはあの人で、解決にいたるきっかけも含めて、吹いた。