ボリス・アクーニン「トルコ捨齣スパイ事件/ファンドーリンの捜査ファイル」

1877年、帝政ロシアオスマン帝国露土戦争の最中。
ワルワーラ(ワーリャ)・スヴォーロワは婚約者のペーチャが暗号手として勤務する最前線の町、ツァリョーヴィツィを目指すが、雇った馭者の裏切りで窮地に陥り、志願兵としてやはり前線へ向かうエラスト・ファドーリンに助けられる。
ツァリョーヴィツィでファンドーリンは、秘密警察長官ジーノフの要請を受けて、ロシア軍の情報をトルコ側へ流している内通者の探索にあたることになり、なぜかワーリャも彼の秘書として働くことに。
やがて、指令部からの電報が間違って伝えられ、ロシア軍が正反対の拠点を攻略してしまう事件が発生。
暗号手として電報を翻訳したペーチャが逮捕されてしまう。


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19世紀後半が舞台の時代ミステリシリーズの2作目。
僕が読むのは「リヴァイアサン号殺人事件」に次いで2冊目になるのだけど、前作の事件への言及があったり、終盤で「リヴァイアサン号」で描かれる極東への船旅のことがほのめかされたり、ちゃんと順を追って読んだ方がいいシリーズだったかもしれない。

 

本作は主人公のワーリャが魅力的。
ロシア最初の女性電報技師であったり、女性選挙権運動などの社会改革にも関心を持つ“進歩的”な少女で、たったひとりで婚約者に会うために戦場までやってくる行動派。
途中、ちょっと現代的にすぎる意見を語ったり、時代考証的に気になるという人もいるかも。

 

戦地でそんな彼女の前に現れるのが、探偵役のファンドーリンや、軍人、外交官、各国の報道陣とこれも個性派ぞろいで、ちょっと逆ハーレムもの恋愛小説みたいにもなる。
そんな面々の中にトルコのスパイがいるのか、いるとしたらそれは誰か、という興味で引き込まれる。

作者は日本語の「悪人」をペンネームにしているというくらいの親日家で、ファンドーリンが明治の日本にやってくる展開もあるようで、それも楽しみ。