額賀澪「世界の美しさを思い知れ」
出演映画の完成を目前に自ら命を断った俳優の蓮見尚斗。
家族との不仲、マネージャーら関係者との軋轢、映画監督のパワハラ、元恋人への未練、と世間はその動機を様々に憶測する。
誰よりそれを知りたいと願う双子の兄の貴斗は、弟のスマホに届いた連絡メールから、彼が死の直前に北海道礼文島への旅行を予約していたことを知る。
表紙に頭蓋骨が大書されててちょっとぎょっとするけど、これは終盤に登場するある国のお祭りの風景。
生まれた時から一緒だった片割れの喪失感を引きずる主人公の内面描写にちょっと重いものはあるんだけど、全体のイメージとしては、弟のかつて訪れた、あるいは行こうとしていた各地の情景描写や、そこで出会う人々との交流が美しい小説。
弟の死の真相を追うミステリ的なのを予想しながら読んだらちょっと違って、何小説とジャンルで言うのは難しいんだけど、紀行小説風であり、会社の同期の女性と弟の元恋人との三角関係的要素もあったり、主人公貴斗の絶望と再生の物語でもある。
エピローグの最後の一行の意味が分かった時、すごいじんと来た。