劉慈欣「円/劉慈欣短篇集」

「三体」で中文SFブームを引き起こした作者の短編集。
原著にあたる本はなくて日本独自の刊なのだけど、収録作選出は著者自身によるとのこと。
ユーモラスなの物寂しいの、古代もの、近未来ものと多彩で、それだけに個人的に合う合わないはあったけど、全編通しては面白かった。


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300万の軍勢を動員しての人力コンピュータで円周率を計算しようとする表題作、「三体Ⅰ」に同じエピソードが出てくるので、てっきりこちらが原型かと思ったらリライトだというのが意外。

一番引き込まれたのは「栄光と夢」。
戦火と経済制裁で貧困と飢餓にあえぐシーア共和国で、マラソンランナーとしての才能を見いだされた少女の物語。
結末はかなり苦い皮肉が効いてるんだけど、スポーツ小説として感動的。

誰にでもおすすめなのは、「円円のシャボン玉」。
小さな頃からシャボン玉が大好きで、博士号も取って一財産築いてまで、「超でっかいシャボン玉」にこだわった円円(ユェンユェン)と、彼女のそんな夢が導いた奇跡の話。
寂れた山村で子供たちへの教育に生涯を捧げた教師の「郷村教師」も良い。