野村美月「『外科室』の一途/むすぶと本。」

聖条学園に通う榎木むすぶは、本の声が聞こえる能力を持った、それ以外は平凡な高校一年生。

本である恋人の夜長姫(よながひめ)の焼きもちに悩まされながら、本たちの悩みを聞くと放ってはおけない、「本の味方」。

 

ある時、駅の貸本コーナーから助けを求める声を聞いてしまい、その本「長くつ下のピッピ」を手に取る。

“彼女”は、もともとはハナという女の子の持ち物だったのだが、駅に置き忘れられてしまい、落とし主不明のまま駅の貸本コーナーに置かれることになったのだという。

なんとかしてハナのもとへ帰りたいと願う彼女のために、むすぶは落とし主の捜索を開始する。


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この前日譚になる話があるようで、そちらを未読だとピンと来ないところはあったけれど、本と読み手との関り合いをテーマにした日常系ミステリで、読書好きには惹きこまれるものがある。

むすぶがどこまでも純朴で素直で、僕みたいなすれた読者にはそれがちょっと鼻白むというのはあったけれど、全体にほっこりする読み味。

 

全5編収録のうち、ラノベを扱った第2話だけ架空の作品(たぶん)なのだけど、それ以外は誰でも読んだことがあるか、タイトルや作者名くらいは知っているはずの古典、名作が登場して、そんなところも読書好きには楽しめるはず。