ベン・クリード「血の葬送曲」
レニングラード(現ペテルブルグ)郊外の線路上に、無惨に傷つけられ奇妙な扮装をほどこされた、5人の死体が並べられていた。
レヴォル・ロッセル警部補は、被害者の中にかつての恋人がいたことをつきとめ、捜査の中で自身の過去とも向き合うことになる。
スターリンの恐怖政治時代を舞台にした歴史ミステリ。
冗談口にでも批判的なことをしゃべれば、逮捕、拷問、シベリア送りの待っている超監獄国家で、事件の真相を解き明かすばかりでなく、捜査に介入してくる国内保安省(MGB)との駆け引き、いかにその魔手から逃れるか、も読みどころ。
考えてもみれば、証拠なんかなくても簡単に人が処刑された社会と、手がかりとロジックを重視するミステリの組み合わせというのも異色。
全編、二重三重の意味で息詰まるような緊迫感。
第二次世界大戦(あちらでいう大祖国戦争)から6年、ロシア革命からも40年足らずで当時を知る少なからず残っていた、時代の空気感も。