人間六度「スター・シェイカー」

人間のテレポート能力が研究され、法整備や実用化の進んだ未来。
赤川勇虎(あかがわいさとら)は、旅行者や貨物を運ぶ職業テレポーター、剛力(ゴウリキ)だったが、事故で人を死なせてしまい、心因性の疾患によってテレポート能力を失う。
そんな彼はある日、町で行き倒れていた少女、ナクサを助ける。
巨大な組織に育てられ、違法なテレポートでその犯罪行為に関わっていたという彼女とともに、勇虎もまた組織から追われることになってしまう。


f:id:onewaykun:20220501154255j:image

去年2021年のハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。
よく言えば濃密で壮大、悪く言うと詰め込みすぎで、コンテストの選評でも言われているように構成に難があったかも。
本当なら三部作くらいのシリーズものでやるのがいいくらいかもしれなくて、ところどころ展開が飛躍しすぎ、一本の小説としてみると、迷走とも見えてしまう。

それでも、偶然に知り合った少女との逃走劇、その中で知ることになる巨大な陰謀、テレポート万能社会の真実、とストーリーはすごく良い。
テレポート社会から取りこぼされ、放棄された高速道路上に独自の社会、文化を築くロードピープルたちの描写、勇虎たちと道連れになるマフラーのキャラ、追手のテレポーターたちにもひとりひとり物語が用意されていたり、惹かれるものは随所にある。
新人作家のデビュー作にありがちな、思い付いたアイディアを全部やってしまったみたいなアンバランスさはあるものの、疾走感ある佳作という感じ。

SFを読みなれた人の感想も聞いてみたいかな。