エラリー・クイーン「災厄の町」
ふと立ちよった田舎町のライツヴィルを気に入った推理作家のエラリー・クイーンは、作品執筆のために長期逗留を決める。
地元の名士ライト家の貸家に入居することになるが、その家は次女のノーラと婚約者のジム・ヘイトのために建てられながら、そのジムが突如失踪してしまったために空き家となっているという曰く付きだった。
やがて、そのジムが3年ぶりに帰還、晴れてノーラと結婚する運びとなるのだったが、新居に運び込まれた彼の荷物の中、「毒物学」と題する書物のページの間から3通の手紙が現れる。
感謝祭、クリスマス、元日の日付の入ったそれらの手紙には、“妻”が病気の末に亡くなった、という報告が綴られていた。
そして、その手紙の記述をなぞるかのように、ノーラの身辺に不穏な動きが。
新訳の力もあるのだろうけど、1940年代の作ながら古さは感じさせず、とても読みやすかった。
(ヨーロッパでは戦争も始まってる時期なのだけどアメリカの参戦はまだで、登場人物たちもドイツやナチを罵倒したりはしても、どこか他人事な風)
日本で江戸川乱歩が「探偵小説全滅す」と書いていた頃、あちらではこんなミステリが出ていたのだと思う、国力差以上の文化力の差を感じてしまうかも。
作中の時期は数ヶ月にまたがっていて、なかなか肝心の殺人事件は起こらなかったり、スロースタートな感はあるものの、架空の町ライツヴィルやその住人たちの生き生きとした描写と、ひたひた忍び寄る何者かの悪意の気配とで、飽きさせられることなく読み進んでしまう。
エラリーとコンビを組むことになるライト家の三女パットのキャラもいい感じ。
途中、刑事裁判のシーンもあって今でいう法廷ミステリ的読み味も。
最後に明かされる真相、意外すぎる真犯人とその動機には唖然とさせられるばかりで、作者がのちに自身の最高作にあげ、ミステリファンも高く評価する作品だけのことはある。